ハテナソン国際フォーラム2019開催報告(前編)
わたしたちは2019年3月22〜23日の二日間を会期とするハテナソン国際フォーラム2019(英語名称:International HATENATHON Forum 2019)(以下、本フォーラム)を、京都産業大学むすびわざ館にて開催した。本フォーラムは2019年4月の京都産業大学生命科学部の開設を記念することを目的に、同学部および京都産業大学の教育研究の特色の一つである質問を創る学び場ハテナソンを京都産業大学内外の多くの人に知ってもらい,体験してもらうことをゴールとして、企画したものである。主テーマを「問いをもつ学び、問いから始める学び」として、生命科学の学びはもとより、あらゆる学びの原点に自ら問うこと、そしてその問いを他者と分かち合うことが重要であることを登壇者と参加者が分かち合い、学びあう場となることを期待した。
本フォーラムの1日目は、4人のゲスト講演者によるシンポジウムとパネルディスカッションをおこなった。講演題目とタイムスケジュール、ならびに講演内容等は次のとおりである。
3月22日(金)13時~17時半(開場:12時半)、2階ホール
13:00 開会の挨拶
寺地 徹(京都産業大学総合生命科学部 学部長)
ゲスト講演者への謝意を表すとともに、京都産業大学総合生命科学部がこの4月から生命科学部に生まれ変わり、先端生命科学科と産業生命科学科の2学科体制で新1年生を迎えること、そして生命科学部での学びにはハテナソンをはじめとするアクティブで主体的な学びがあることを紹介した。
13:05 趣旨説明と事務連絡
佐藤 賢一(京都産業大学総合生命科学部)
本フォーラムが2年前(2017年3月)に京都産業大学むすびわざ館で開催したダン・ロススタイン氏を迎えての、同氏が開発した質問づくりメソッドQFT(question formulation technique)ワークショップならびにトレーニング・プログラムの続編であること、そして今回は、QFTの共同開発者であるルース・サンタナ氏をアメリカから、質問駆動型学習の研究かつ実践者であるハリー・ストコフ氏をオランダから、高等教育を専門とするジャーナリストである松本美奈氏を東京から、細胞生物学研究者ならびに歌人として著名な本学の永田和宏氏をゲスト講演者に迎えてのシンポジウムを1日目に、持続可能な開発目標SDGsをテーマに「問いをもつ学び、問いから始める学び」を体験するワークショップを2日目におこなうものであることなどを説明した。
13:15 講演1
Luz Santana 氏(The Right Question Institute, USA)『Question Formulation: the Fundamental Skill for a Thinking and Learning』(日本語の逐次通訳付き)
幼年期から青年期にいたる学校での学びに「質問する」スキルの涵養が重要であること、しかしながら学校教育の現場で質問をするのはほとんどが教師であり、生徒が、学生が質問する機会そのものがないことを問題として提示した。その上で、質問づくりメソッドQFTを開発者の立場から、このメソッドがどのようなプロセスで構成されており、その活用により幼稚園から大学・大学院にいたる様々な教育現場での学びがどのような変化を遂げつつあるのかを紹介した。QFTの体験前後で、教師側から見ただけでなく、学習者の質問スキルの向上に対する自己効力感の向上が見られることを示す予備的な研究結果も紹介された。さらにはグーグル検索に象徴されるインターネット時代における「質問する」ことの意義や、時代を超えた「質問する」ことの意義、すなわち健全かつ堅牢なデモクラシーの体現あるいは実現にQFTの普及が貢献することを期待する旨が述べられた。
14:05 講演2
Harry Stokhof 氏(HAN University, Netherland)『How to Guide Effective
Student Questioning? Design and Evaluation of a Principle-based Scenario for Teacher Guidance』(日本語の逐次通訳付き)
学校教育での学びに問いが重要であることは明白である、しかしながら、教室の中で質問するのは圧倒的に教師の側であり、その状況を変える必要がある、このことがハリー氏が小学校教師をしていた時からもつ問題意識である。そして、大学院で学び、かつ教師教育に関わるようになった現在は、教師の発問から始まる学びと、生徒や学生がもつ問いを重ねる学びのコンセプトとして、質問駆動型学習を構想・研究し、実践していることが説明された。現在実践している質問駆動型学習のシナリオでは教師と生徒の学びを5つの段階で積み重ねていく。個々のステップの内容と時間のデザインは学びの設計者である教師にかなりの自由度があること、そしてすでに複数の学校・教員で実装試験が行われていることなども紹介された。最後には日本の学校を担う教師たちへの提案(質問駆動型学習シナリオの共有と最適化に向けた国際連携など)が示された。
15:10 講演3
松本 美奈 氏(読売新聞東京本社)『脱・自己中 誰かの立場で質問する』
松本氏は、読売新聞社で「大学の実力」の編纂に中心的に関わるなど、高等教育を専門とするジャーナリスト活動を展開してきた一方で、最近数年間は帝京大学と上智大学など、大学教育の現場で授業を行う機会をもつようになってきている。その活動を通して実感することは、学生の中に社会に対する無関心が広がっているという危機感であるいうことが問題意識として提示された。自身が設計し運営している授業科目では、新聞をだれかの立場に立って読むことを起点として、質問を作り、その質問に答えるための諸活動をまとめた発表をすることをゴールとする学びを実践している。大学が問うて学ぶ場であり続けるためには、学生が「質問するのは嫌だ、しんどい、恥ずかしい、怖い」といった心持ちから、「質問するともっと質問したくなる、理解が進む、相手と仲間になれる、深く学べる」へシフトするよう、われわれ教育者が促せるようにならないといけない、という提言が示された。
15:00 休憩
15:40 講演4
永田 和宏 氏(京都産業大学)『問う力ー問は答よりむずかしい』
初等中等教育の学びは学習(学んで習得する)であり、大学における学びは学問(学んで、問いなおす)であることを示した。才能とは正しく答えられることよりも正しく問えること、問題解決能力と問題発掘・提示力を総合したものである。既成概念や「型」でものを見ない、当たり前を疑う態度が重要である、とした。その具体例として自身の経験、すなわち人体を構成する細胞の数についてのエピソード(前提を疑うことの重要性)や、歌人としての知り合いの作品(当たり前を問い直すことの難しさと大切さ)を紹介するなどして、なぜ本を読み、学問をするのか、なぜ問いを立てることが重要であるのかを説明した。また、日本においては、科学はスポーツのように文化として根付くレベルに達していないという考えが示された。
16:15 休憩
16:20 パネルディスカッション
全ゲスト講演者(4名)が再び登壇し、コーディネータ(佐藤)による司会進行のもと、パネルディスカッションをおこなった。コーディネータから提示された3つのお題(問い)に対して、ゲスト講演者が順番に答え、あるいは論考を披露した。また1つのお題ごとに聴衆からの質疑を受け付け、ゲスト講演者との対話形式によるディスカッションを合わせておこなった。3つのお題は以下のとおりである。
1)いま探求したい問いはどんな問いですか?なぜその問いを探求したいのですか?
2)これまで探求のしがいのあった問いはどんな問いですか?どのように探求したのですか?
3)どんな問いが好き、またはお気に入りですか?なぜ好き、またはお気に入りなのですか?
ゲスト講演者はそれぞれすべてのお題に回答し、またその内容も4者4様の興味深いものであった。質疑応答では、高校生参加者からの「スピーカーの皆さんはいつから質問をすることができるようになったのですか?」という問いに対して、「実は私は小さい頃から問うことが好きで、しかもそれを誰かに止められる経験も特にないまま、たぶんそのおかげで今やっている仕事にぴったりの自分に至っているように思う」といった返答が出てくるなど、ゲスト講演者と聴衆が終始楽しく、時には笑いながらのやりとりをもつことができた。
17:30 閉会の挨拶
黒坂 光(京都産業大学総合生命科学部 教授)
あらためてゲスト講演者への謝意を表すとともに、京都産業大学生命科学部の設立にかかる教育研究のますますの充実に向けた取り組みをこれから実行していくことを説明した。アクティブラーニングと対極にあるかのように位置付けられることの多い座学や個人としての学びの充実も今後は一層重要となること、その道標の一例として2つの図書「新しい学力」「最強の学び方」を紹介した。
最後に佐藤から聴衆全体に本シンポジウムおよびパネルディスカッションへの参加に謝意を表し、17:40に1日目を閉会した。